「天下り」は英語で何という? – 英訳が難しいビジネス英語表現

デイビッドセインさん 辞書を引いて英訳した単語が、海外では異なって解釈されていることがよくあります。当シリーズでは英語、日本語両方を熟知し、多数の英語書籍を出版しているデイビッド・セインさんが言葉の意味や用法、また文化背景について解説します。

第3回は「天下り」です。

いかにも日本らしい制度?

 前回の「忖度」に続き、いま話題の言葉を取り上げてみましょう。今回はズバリ「天下り」です。一般的には、官庁から関連企業に就職することを意味します。しかしマスコミ等が騒ぐのは、官僚が退職後(退職金という名の税金をしっかりもらった後で)、現役時代に利益供与していた企業に「再就職」の形で雇用されるため。これが立場的に上だった者(役人)が下に回る(企業の社員になる)ことから、「天下り(天から人間界へ降りること)」と呼ばれているようです。この日本独自の文化的背景も入れて英訳するならば、

 Japanese companies sometimes hire former government workers so they can profit from the influence that person has. This is called “amakudari,” which means descending from heaven.

 日本企業は元官僚を雇い、その影響力を使って利益を得ることがあります。これは「天下り」といい、天からの降下(天の存在である役人から、下々である一般企業人への転身)を意味します。

などと説明すればわかりやすいでしょう。仲間内のカジュアルな会話なら、

to go from a government job to a cushy private-sector job
政府の仕事から退屈な民間職に移る

private-sector employment of former government officials
民間企業による元政府役人の雇用

なんて皮肉っぽく説明してもいいかもしれません。

アメリカで天下りは…

 文化の違いもありますが、実はアメリカで「天下り」は当たり前。政治家や官僚が企業に入るのは普通のことで、日本ほど問題にはされません。
 官僚から民間への転身を、日本語の「天下り」のようにひと言で表現するなら、 revolving door(回転ドア)がいいでしょう。これは回転ドアのように、人の入れ替わりの激しい企業を揶揄した言い方です。政治の話をしていて

the revolving door between government and the private sector
政府と民間企業の間の回転ドア

などと言えば、「天下り」に近い皮肉のこもったニュアンスも伝わるでしょう。

やっかみのニュアンスがポイント!

 もう1つ似た言葉として、golden parachuteも紹介しておきましょう。これは官僚が企業に入るのではなく、吸収合併された側のトップが、多額の退職金をもらって辞めることを指します(まさに金のパラシュートで降下するイメージです)。企業の「名ばかり取締役」になり、不正報酬を受け取ることにもつながるため、あまりいいイメージでは使われない表現です。
「天下り」やrevolving door、golden parachuteといった言い回しを、当事者が使うことはまずありません。部外者が皮肉をこめて使う言葉ですから、この「やっかみのニュアンス」をいかにうまく伝えるかが、英訳のポイントとなるように思います。

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