「表現力をもっと高めたい」「もっと印象に残る文章が書きたい」と感じている学習者はたくさんいらっしゃいます。今回ご紹介するのは、英語の文章に「臨場感」を与える「Sensory Writing」。15冊以上の小説を手がけてきたプロ作家であり英語便講師でもあるJenna Hammarが、その魅力と実践法を全2回にわたってお届けします。
第1回では、「Sensory Writingとは何か?」を解説します。
「五感で描く」とはどういうこと? Sensory Writingの基本
私たちは日々、さまざまな目的で文章を書いています。感謝の気持ちを伝える手紙や、日々の思いを記録する日記。メッセージやメールなどの実用的なコミュニケーションも含まれます。しかし、どんな文章であっても、読んだ人の心に残るかどうかは「どれだけ相手に情景や感覚を伝えられるか」にかかっています。
その鍵を握るのが、Sensory Writing(感覚的ライティング)です。これは、書き手が五感(視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚)を意識的に使って描写することで、読者にまるでその場にいるかのような臨場感を与える表現方法です。具体例でみてみましょう。
視覚 (Sight)
The soft pink of her dress made her look like a cherry blossom in bloom.
淡いピンクのドレスを着た彼女は、まるで咲き誇る桜の花のようだった。
聴覚 (Sound)
His deep voice wrapped around each word, slow and deliberate.
彼の低い声は一語一語を包み込むように、ゆっくりと慎重に響いた。
味覚 (Taste)
The buttery cookie crumbled in my mouth, releasing a rush of cinnamon warmth.
バターたっぷりのクッキーが口の中でほろほろと崩れ、シナモンの温かさが一気に広がった。
触覚 (Touch)
The matted fur had a rough, dry texture, like old carpet.
絡まった毛は古いカーペットのようにザラザラして乾いていた。
臭覚 (Smell)
The smoky air reminded me of burned toast left too long in the oven.
煙の混じった空気は、オーブンで焦がしたトーストを思わせた。
このように五感を取り入れた表現は、ただ「何があったか」を伝えるだけではなく、読者の心の中に情景を”再現”させる力を持っています。
Sensory Writingは、エッセイ、ストーリー、日記、スピーチなど、あらゆるタイプの英語ライティングに命を吹き込む手法です。
「描写」から「感覚的ライティング」へ- Descriptive Writingとの違いとは?
英語の勉強で、写真や映像を見ながら「英語で描写してみよう」という課題に取り組んだことがある方も多いでしょう。このような練習では、多くの場合 Descriptive Writing(描写的ライティング)が使われます。たとえば、色、形、大きさ、状態などの視覚的な情報を詳しく伝えることが目的です。
しかし、そこからもう一歩先へ進んだ表現が Sensory Writing です。Sensory Writingでは、視覚だけでなく、五感すべてを使ってその場の「空気」や「体験」を描き出すことで、より豊かで記憶に残るライティングが可能になります。
例1:ハンバーガーの描写
Descriptive writing:
I like big, greasy hamburgers.
私は大きくて脂っこいハンバーガーが好きです。
Sensory writing:
I like hamburgers best when the scent of smoky bacon hits me first, the crisp lettuce cracks between my teeth, and warm, melted cheese runs down my fingers as I hold it.
まずスモーキーなベーコンの香りが鼻に届き、シャキッとしたレタスが歯の間で音を立て、とろけたチーズが指をつたいながら垂れてくる──そんなハンバーガーが一番好きだ。
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感覚を通じて、「匂い」「食感」「温度」「動き」が文章に加わることで、読者の五感にも響くリアルな描写になります。 |
例2 スーツの描写
Descriptive writing:
He likes wearing old suits.
彼は古いスーツを着るのが好きだ。
Sensory writing:
He always wore old suits that smelled faintly of mothballs, with fabric thinned and shiny at the elbows and knees, like a memory polished too many times.
彼はいつもナフタリンの香りがかすかに残る古いスーツを着ていて、ひじやひざのあたりは擦り切れて光っており、まるで何度も磨かれた記憶のようだった。
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「古い」という情報にとどまらず、匂い、手触り、見た目、比喩的表現が加わることで、より深い印象を与えています。 |
Descriptive Writing が「何が見えるか」をベースに予想を交えてを描く技術である一方、Sensory Writingは「何を感じるか」を描く技術です。両者はどちらも大切ですが、感覚を通して読者を「体験の中」へ引き込む力を持つのがSensory Writingの最大の魅力です。
以上、今回はSensory Writingの概要とDescriptive Writingとの違いについてご説明させていただきました。次回の記事ではさらに内部に踏み込みSensory Writingのテクニックについて解説していきます。