「のどごし」は英語で何という?– 英訳が難しいビジネス英語表現

デイビッドセインさん 辞書を引いて英訳した単語が、海外では異なって解釈されていることがよくあります。当シリーズでは英語、日本語両方を熟知し、多数の英語書籍を出版しているデイビッド・セインさんが言葉の意味や用法、また文化背景について解説します。

第15回は「のどごし」の英語表現を解説します。

 ビールがおいしい季節の到来です! 今月は読者の方から質問のあった「のどごし」の英訳に挑戦です。
 ビジネス英語は決まった表現が多く、慣れればある程度は誰でもやりとりができます。実際のところ翻訳で手こづるのは「のどごし」や「歯ごたえ」といった、日常表現でありながら文化的な背景を含んだ表現でしょう。一般的に、日本のビールはアメリカのビールよりコクがあると言われます。そのコクが、今回取り上げる言葉「のどごし」を生むようです。
 歯ごたえに関する表現は英語にも色々とありますが、「飲食物がのどを通り過ぎる様子」を端的に表す「のどごし」のような言葉は存在しません。一工夫して、語のもつ雰囲気を伝えるようにしましょう。

「のどごし」を英訳すると?

 単に飲食物が喉元を落ちていく様子なら、feels … going downで伝わります。ではこのフレーズを使って「夏の暑い日には、ビールののどごしが最高だ!」を英訳するとどうなるでしょう? 私なら次のように表現します。

Beer feels great going down on a hot summer day!

I feel…とせず、主語をあえてBeerにしてBeer feels …としたところが、この英訳のキモです。

無生物主語を使いこなす

 日本語では、無生物を主語にすることにやや違和感があるようですが、英語では頻繁に無生物を主語にします。なぜなら、その方が「より生き生きとした表現」になるからです
先ほどの文も、あえてIではなくBeerを主語にすることで「ビール自体が喉元を落ちていく爽快感」を出せます。

 ちなみに真っ直ぐな道を見たら、The road was straight.と言うのが一般的ですが、これをThe road went straight.と表現すると、真っ直ぐにずーっと続いていく様子が出せます。
電波が届かなくて携帯電話が使えない時も、I can’t use my phone.ではなく、My phone won’t work.とした方が「電話が動かない(だから使えない)」雰囲気をうまく伝えられます。
ですので料理の感想を伝えるなら、より生きた表現になる無生物主語がおすすめです。
のどごしの良さを好ましく表現するならbe easy to swallowが、逆に飲み込みにくさを伝えるならbe hard to swallowを使うといいでしょう。

 参考までに、あるアメリカ人が日本の食材ののどごしを紹介すると、次のようになります(私です!)。

Hiyashi-soba feels good going down, so it’s a great summer food.
冷たいソバは、のどごしがいい最高の夏の食べ物だ。

I think you’ll find that somen noodles go down easily.
素麺はするっと喉を落ちていく感じがするよ。

For me, konyaku feels strange going down.
個人的にコンニャクは飲み込むと変な感じがする。

Mochi might be hard for you to swallow.
餅を飲み込むのは大変かもしれない。

映画やテレビのドラマなどでも、無生物を主語にした表現は多々出てきます。そんな点に注意して英語を聞くと、また違った英語の一面が見えるかもしれません。