※ 今回は、イギリス在住の英語便講師 Andrew が、地元のスーパーマーケットで見つけた「日本食」についてレポートします。記事内の写真は、Andrewが実際によく行くスーパーでお店に許可を得て撮影したものです。
約30年前、私が初めて日本で暮らすことになったとき、日本食といえば「寿司」や「刺身」くらいしか思い浮かびませんでした。ビザを受け取った帰りに、ロンドンの日本大使館近くのスーパーで買った寿司を初めて食べた日のことを今でも覚えています。意外と箸もうまく使え、そして何より美味しかった。
それから30年。いまやイギリスのほとんどのスーパーに「Japanese Food」コーナーがあり、みりん、ポン酢、米酢、S&Bやハウスのカレールー、ポッキー、しょうゆやキユーピーマヨネーズ、カップラーメンまで並んでいます。一部の店では日本酒や寿司米、冷凍うどんを見つけることもできます。ただし、手に入りやすくなったとはいえ、その味やスタイルは本場日本とは少し違うようです。
イギリスのスーパー寿司、日本とどう違う?
今では多くのスーパーが自社製の寿司パックを販売しています。しょうゆやわさび、紅ショウガの小袋まで添えられ、見た目は日本の弁当コーナーに近いものもあります。ただ、ネタにはアボカドや天ぷら野菜、さらには「寿司マヨネーズ」(上記写真)なるものが使われるなど、日本人から見ると少し不思議な組み合わせも。味の鍵となる酢飯も、米の種類や酢の量が合っておらず、「ほぐれて食べづらい」「味がぼんやりしている」こともしばしば。
私のおすすめは、英国チェーンのSainsbury’s(セインズベリー)。比較的まともな寿司を出しているようです。
ラーメン人気を支えた「Wagamama」
イギリスでラーメンが市民権を得たのは、1990年代半ばに誕生したレストランチェーンWagamamaの影響が大きいでしょう。現在では国内に約170店舗を展開し、「ラーメン=おしゃれで健康的なアジアンフード」というイメージを広めました。その結果、スーパーでもラーメン材料が充実し、家庭で簡単に作れる「ラーメンキット」まで登場しています。
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「Wagamama」というブランドは、1992年にロンドンで最初の店舗を開いたイギリス人実業家、アラン・ヤウ(Alan Yau)によって生まれました。彼は、日本語の響きがユニークで覚えやすいことから、「Wagamama」という言葉をブランド名に採用したそうです。ただし、ここでの「Wagamama」 は日本語の「自己中心的」という意味ではなく、「自分の好みに忠実に」「自分らしく生きる」といった前向きなニュアンスで使われています。 |
味噌、枝豆、そして豆腐も英国式に!
味噌は近年「ヘルシー食材」として注目を集めています。みそ汁としてではなく、炒め物の調味料やスイーツの隠し味に使われることも。「ミソキャラメルクッキー」や「ミソケーキ」「ミソアイス」など、和洋折衷のデザートも人気です。
枝豆もすっかり一般的になり、サラダの具として使われるほか、冷凍コーナーでは皮付き・むき身の両方が選べます。ただし、日本のように塩をふってそのまま食べる人はまだ少ないようです。ちなみに私者は、皮付きの枝豆を炭火で少し焦がしてから塩をふる食べ方が大好きです。表面が香ばしくなり、冷たいビールに最高の組み合わせになります(日本人妻にも好評!)。
豆腐もすっかり定番化しています。森永など日本メーカーのロングライフ豆腐がスーパーで手に入り、ベジタリアンやヴィーガン層の必須食材となっています。
ピンクの抹茶ラテとカツカレーの「誤解」
10年ほど前まで、抹茶はロンドンの日本食店以外ではほとんど見かけない存在でした。それが今では全国どこのカフェでも見かけるほどの人気ぶり。抹茶ラテや抹茶ケーキ、抹茶アイスといったスイーツにも広く使われています。ただし、欧米では「緑色の飲み物=おいしそうではない」という感覚があるようで、抹茶はよく別の味と組み合わせて提供されます。
たとえば、私が先週ブリュッセル空港のスターバックスで見かけたのは、「ラズベリー抹茶ラテ」。注文した人に運ばれてきたカップを見て、思わず「ピンク!?」と二度見してしまいました。もはや「抹茶=緑色」という固定観念は、完全に覆されつつあります。
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そして、もっとも興味深い誤解のひとつが「カツカレー」です。もともとは、スーパーで販売されはじめた 「チキン・カツカレー&ライス(Chicken Katsu Curry & Rice)」 からです。見た目は日本のカツ丼に似ていますが、豚カツの代わりにチキンカツを使い、その上からたっぷりとカレーソースをかけたものでした。
ところが、時が経つにつれて多くの人が 「カツ=カレーソースの種類」 だと勘違いし始めたのです。その結果、「カツカレーソース」や「カツカレーペースト」、さらには「カツライス」といった商品まで登場しました。もちろんどれにもカツ(カツレツ)そのものは入っていません。どうやら、もともとの「チキンカツカレー」が、いつの間にか「カツ味のカレー」に変わってしまったようです。
実際、私の妹も先日、「自家製カツカレーソースを作ったの!」と誇らしげに話していましたが、ふたを開けてみると、それはただの日本のカレーソース。どこにもカツの姿はありませんでした。
「うま味」ブーム
有名シェフたちがテレビで”umami”を連呼するようになってから、「Umami Seasoning(うま味調味料)」という商品が登場しました。トマト、味噌、アンチョビ、海藻などを混ぜ合わせた粉末やペーストで、家庭でも「うま味」を手軽に加えられるとして人気です。
イギリスで愛される「和食もどき」
そのほかにも、
・ワサビ味のソーセージ(なんと緑色!)── 数週間後には値引きコーナーに大量に並んでいたとか。
・衣をつけて揚げた「バタード寿司ロール」(海苔巻きをそのまま揚げてしまう発想)
・餅アイス、しいたけパイ、チキンやダックの餃子(豚肉ではなく鶏や鴨が主流)
・サーモン&ディルおにぎり ※「ディル(dill)」はヨーロッパ原産の香草で、サーモンと相性抜群
など、イギリス流にアレンジされた「和食もどき」が次々と登場しています。
こうして見てみると、イギリスのスーパーには”Japanese”と名のつく食品があふれています。その多くは本場とは少し違うけれど、「日本食=健康的でおしゃれ」というイメージが根付いた証でもあります。
本物とは違っても、それがきっかけで日本文化に興味を持つ人が増えるのなら、それもまた素敵なことですね。
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